八ヶ岳の四季と登山適期

八ヶ岳の四季と登山適期
10月下旬の赤岳の登山道

八ヶ岳の特徴

八ヶ岳は、長野県と山梨県に跨り、蓼科山から編笠山まで南北30㎞に及ぶ火山活動によってできた連峰。北西に北アルプス、西に御嶽山や中央アルプス、南西に南アルプス、南に富士山、南東に奥秩父の山塊が位置し、山々に囲まれた山域。夏沢峠を境に北側を北八ヶ岳(蓼科山~天狗岳)、南側を南八ヶ岳(硫黄岳~編笠山)に分けられ、北八ヶ岳は比較的なだらかな山容なのに対し、主峰赤岳などを含む南八ヶ岳は岩場の険しい山容をしている。

八ヶ岳は、内陸性の気候特性で夏は涼しく、冬は寒冷で乾燥しており、特に冬の晴天率が高く、積雪量は多くないものの気温は極めて低いという特性をもっている。また、八ヶ岳の登山口の標高は、1500m~2000ⅿほどと高く、亜高山帯(針葉樹の森)から歩き始めるのも八ヶ岳登山の特徴のひとつだ。

八ヶ岳の登山では、5~6月が春、7~8月が夏、9~11月が秋、12~4月が冬と捉え、それぞれの四季の特徴と登山適期、留意点などを解説する。

八ヶ岳の登山計画に是非参考にしていただきたい。

 

八ヶ岳の春[Spring  5月~6月]

八ヶ岳の四季と登山適期
5月下旬の赤岳 稜線にはもう雪はない。

山麓では4月に桜が開花するが、八ヶ岳の山中では4月はまだ冬。気温は緩んでくるが、天候が崩れると大雪を降らせることもある。そのため登山としては、春は5月からと位置付けた。

八ヶ岳では4月下旬頃から融雪がはじまり、5月に一気に雪解けがすすむ。5月の終わりには谷筋以外はほとんど雪がなくなる。6月に入ると稜線では高山植物の開花が始まり、ツクモグサを皮切りに、キバナシャクナゲ、オヤマノエンドウ、ミヤマキンバイ、ハクサンイチゲなどが稜線を飾るようになる。

 

 

登山適期と留意点

4月はまだ本格的な雪山装備が必要となるが、5月になると防寒対策は必要だが、晴れれば暖かい日もあり、軽アイゼンなどでも歩けるようになる。

5月のGWを含む上旬では、稜線の雪は少なくなるが、樹林帯の登山道ではまだ残雪が多い。この時期に八ヶ岳の登山は、軽アイゼンは必携となる。5月の下旬頃は大分積雪も少なくなるが、まだ山では気温は低く、登山道が凍結していることも多く、軽アイゼンなどの滑り止めは携帯したい。

軽アイゼンで残雪歩きを楽しむなら5月がおすすめだ。

6月になれば滑り止めも不要となるが、梅雨の時期に入ると曇り空の日が多くなる。梅雨に入る前の5月下旬から6月中旬くらいまでが晴れる日が多くなり登山におすすめの時期だ。

 標高2,500m付近の5月の平均気温は5℃前後、6月で10℃前後なので、まだまだ防寒対策が必要となるだろう。

八ヶ岳の夏[Summer 7月~8月]

八ヶ岳の四季と登山適期
7月上旬の梅雨の合間に赤岳にのぞむ登山者

その年にもよるが、7月下旬頃までは梅雨時なので雨の日が多くなる。梅雨の合間の晴れの日にはアブが発生する。八ヶ岳のアブ(特に南八ヶ岳に多い)は7月上旬~中旬に掛けて大量発生する。7月に入ると高山植物の種類も豊富になり、コマクサをはじめ、クロユリ、チシマギキョウ、ミヤマダイコンソウ、シコタンソウなど八ヶ岳で最も見ごたえのある時期となる。

 

 

登山適期と留意点

7月の上旬~下旬に掛けては、雨が降るとまだまだ冷える時期。防寒具を持参しよう。縦走で何泊もする場合は停滞することも考慮し予備日を設けることも必要となる。梅雨の晴れ間は嬉しい反面、アブが大量発生するので、特に登山口付近は気を付けたい。梅雨が明けた7月下旬から8月に掛けてが最も登山に適した時期といえる。8月からは台風の動向や落雷予報などにも注意を要する。夏とはいえ、都会の猛暑からすると想像以上に涼しく(寒く)感じられるだろう。標高の高いところでは15℃前後なので、雨に打たれて低体温症にならないよう注意。

 

八ヶ岳の四季と登山適期
7月中旬、硫黄岳~横岳にあるコマクサの群生地

[コラム1]南八ヶ岳が険しい理由

南八ヶ岳が険しい理由
南八ヶ岳の稜線 八ヶ岳では最も険しいクサリと梯子が連続する上級者コースだ。

八ヶ岳は今から120万~80万年前に火山活動がはじまり、30万年前には南八ヶ岳の火山活動は停止し、北八ヶ岳はそれ以降も活動を続けた。南八ヶ岳のほうが火山活動を停止してからの年月が長いことになる、南八ヶ岳が北八ヶ岳に比べて急峻な地形なのは、北八ヶ岳に比べ長い年月の浸食、風化作用によるものである。

[コラム2]希少な高山植物

希少な高山植物
稜線で一番先に咲くツクオグサ

八ヶ岳は国内でも有数の高山植物の宝庫だ。

八ヶ岳の固有種や希少植物も少なくない。国内では北海道と白馬岳でしか見られないツクモグサやウルップソウをはじめ、ヤツガタケキスミレ、ヤツガタケキンポウゲ、ヤツガタケナズナなど「ヤツガタケ」を冠したものも多い。また絶滅危惧種にも指定されるホテイラン、クモイコザクラ、ニョウホウチドリなどの希少種も見られる。樹木では八ヶ岳の中では西岳にしか生育していないヤツガタケトウヒも希少種だ。これら希少種を守るために登山道からは外れないよう心掛けたい。

八ヶ岳の秋[Autum 9月~11月]

八ヶ岳の四季と登山適期
9月の編笠山と権現岳の鞍部にある青年小屋のテント場 この時期テント場も混み合う時期だ。

8月の終わりごろからウメバチソウやリンドウが咲き、秋の気配を感じられるようになる。9月上旬はまだ気温も高いが、9月中旬以降は急激に気温が下がり、標高の高いところでは葉も色付き始める。9月下旬が標高2500m、10月上旬が2000m付近の紅葉が見頃となる。10月に入るとさらに気温は下がり、例年10月中旬頃には初冠雪を迎える。この頃に降った雪は根雪にはならず、一端融け本格的な雪は11月下旬ごろからとなる。10月下旬から11月中旬に掛けて山麓のカラマツが黄葉し、八ヶ岳は黄金色に染まるといよいよ冬の到来となる。

 

 

登山適期と留意点

この時期は晴れれば歩いていて暑く感じ、立ち止まって休むと寒く感じる時期でもある。レイヤリングを工夫し、衣服の調節は頻繁に行うようにしたい。10月中旬以降は降雪情報にも注意し、軽アイゼンなど滑り止めも携帯したい。登山初心者や雪山未経験者は、10月中旬以降には標高の高い南八ヶ岳などは避けた方がいい時期になる。とは言え、降雪の少ない年では11月上旬くらいまでは晴れれば普通に登山は楽しめる。

標高2,500m付近の9月の平均気温は10℃前後、10月は5℃前後、11月は0℃前後となる。10月下旬以降は氷点下になることも稀ではなくなる。

 

八ヶ岳の四季と登山適期
10月上旬の白駒池の紅葉

[コラム3]八ヶ岳にコケが多い理由

八ヶ岳にコケが多い理由
八ヶ岳で特徴的な苔生した森

八ヶ岳、特に北八ヶ岳は、奥入瀬渓谷と屋久島に並ぶ「コケの三大聖地」とも言われ、コケの種類が豊富で、苔生した美しい針葉樹の森を見ることが出来る。

八ヶ岳は火山灰や火山岩が堆積し土壌が痩せているため林床には植物が生えにくく、またゴツゴツした岩の隙間に水分が保持され、コケの生育には適した環境にある。また針葉樹の森では林床に光が入りやすく、光合成をするコケにとっては好都合というわけだ。八ヶ岳は日本の中央部に位置するため、北方系の種類と南方系の種類の両方が生育していることが、種類が多い理由のひとつだ。コケの上に落ちた樹木の種は、森のゆりかごの中で育ち、豊かな森をつくるのに役立っている。

八ヶ岳の冬[Winter 12月~4月]

12月に入ると、山麓は雨でも標高の高いところでは雪となる。八ヶ岳は内陸性の気候のため特に気温が低くなり、この時期から滝も凍りはじめる。12月中旬以降は完全に雪山となる。1~2月では降雪量も多くなり、寒気が流入し天候が悪化すると、北西風が強まりドカ雪を降らせることもある。3月が最も積雪量が多くなる時期だ。3月頃から気温も少しずつ上がってくるが、4月中旬頃まで時々降雪があり、雪は融けたり、積もったりを繰り返し徐々に雪は減っていく。

 

登山適期と留意点

11月下旬頃から雪山登山の時期に入る。12月は本格的な雪山装備が必要となる。林道のアクセスも積雪や凍結に注意したい。12月~2月の厳冬期の山では、気温は氷点下10℃を下回ることも珍しくない。3月頃から雪もしまり、雪山入門者・初心者にはおすすめの時期だ。4月中旬頃まで雪山登山が楽しめる。但し降雪情報には留意し、20cm以上積もるような翌日は雪崩の危険もあるので、雪崩地形には入らないよう留意する。標高2,500m付近の3月の平均気温は氷点下5℃前後、4月で0℃前後。

冬期は、山麓の天気予報が晴れでも、山には雲が掛かり暴風雪の荒れた天気になっている場合もある。また、山麓の天気予報が雨の場合でも、標高によりそれが降雪となるかを予測しておくことも大切になる。

⇒山の雨雪判定はこちらをご参照ください。

⇒雪崩など雪山リスクについてはこちらをご一読ください。

 

八ヶ岳 アイスクライミング
八ヶ岳はアイスクライミングのメッカ。週末には首都圏から大勢のクライマーが訪れる場所でもある。

[コラム4]八ヶ岳ブルーな理由

八ヶ岳ブルーな理由
紺色の空が八ヶ岳ブルーの特徴だ。

八ヶ岳は北西側に北アルプスがあり、冬の北西寄りの風が遮られ、雪を降らせる雲が発生しにくい。寒気が流入した際は、北西風も強まり雪を降らせるが、北アルプスほどの降雪量はない。そのため特に冬の晴天率が高く、青空が広がることが多くなる。空気も澄んでおり、雪山の白色とのコントラストが加わり、濃いブルーの空が期待できるというわけだ。


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