雪山登山の基礎知識

本格的な雪山登山を目指される方へ

雪山 登山 基礎知識

雪山は厳しい寒さと風雪、滑落や雪崩などの危険と隣り合わせの世界、ゆえにそれらを克服するスキルを身に付け山頂を極めたときの達成感はひとしおであり、樹氷などの自然現象や澄み渡る山々の雪景色など雪山でしか味わえない特別な世界でもある。

夏山登山での経験を活かし、次は雪山登山を始めてみたい、アイゼンやピッケルを使用した本格的な雪山に挑戦してみたいという、雪山入門者・初心者のために、知っておいた方がよい雪山の特徴やより安全に雪山登山を楽しむ基礎知識、求まられるスキルや何からはじめたらよいのかなどをまとめた。

 

目次

■雪山登山の時期

■雪山の特徴と雪山登山に求められるスキル

■雪山登山のステップ 

 

雪山 入門 登山 基礎知識

■雪山登山の時期

ひとくちに雪山登山といっても、その時期は3つ又は4つに分けられ、同じ雪山でもその区分ごとに難易度は異なってくる。中部山岳地域では、11月頃から雪が降り始め積雪が見られるようになる。一般に11月~12月中旬頃までを初冬期、12月下旬~2月を厳冬期、3月~4月を春期、5月~6月を残雪期と呼び、11月~6月の積雪がある時期の登山を雪山登山の季節といっていいだろう。その中でも特に11月~2月を冬山、3月~4月を春山と呼んでいる。最も積雪が多いのは、2月下旬から3月の時期となる。

 

雪山登山の難易度は、残雪期、春期、初冬期、厳冬期の順でレベルが上がるので、雪山登山をはじめようとする方は、まずは残雪期や春期から始めて、初冬期、厳冬期とステップアップしていくとよい。

雪山 入門 基礎知識
初冬期の八ヶ岳・赤岳

■雪山の特徴と雪山登山に求められるスキル

夏山にはない雪山ならではの特徴を知り、それらに対処する雪山登山の技術やスキルを知っておきたい。

①厳しい気象条件

当たり前のことだが、雪山は寒さが厳しい。氷点下10度くらいは当たり前、しかも北西風の強い風が吹く厳しい気象環境にある。西高東低の冬型の気圧配置になると悪天の日が続いたりする。山域によっても気象条件は異なるので、事前の天気情報の入手や現場での天候判断が求められる。

 

②アイゼン・ピッケルワーク

積雪期の登下降7には、アイゼンやピッケルを駆使した技術が必要となる。特に急斜面や岩場などではその必要性が増す。③の転滑落とも関連し、しっかりとしたアイゼン・ピッケルワークを身に付けることがっ求められる。

 

③転滑落の危険性

積雪によるスリップ、凍結した斜面での転倒や滑落の危険性が増す。

 

④ルートファインディング

積雪で登山道が覆われ、トレースがないときは、コースを判断する必要がでてくる。また積雪期は夏道とは異なるルートをとることもあり、地形からコースを判断するルートファインディングが求められることもある。現在地の把握や進むべき方向を知る読図の技術が夏山より必要性を増す。

 

⑤ラッセル

積雪が多くトレースのないところでは、雪をかき分けて進むラッセルを強いられることもある。足首程度の積雪でも、それなりに体力が必要となり、想像以上に時間を費やす。

 

⑥雪崩の危険性

積雪期は雪崩の発生しやすい場所を回避し、雪崩の危険から身を守る知識も必要となる。

 

⑦雪庇の踏み抜き

尾根の風下側に吹き溜まりとして現れる雪庇を踏み抜くと、思わぬ大事故に繋がる。

 

⑧山小屋・交通機関などの情報収集

冬期は営業していない山小屋も多く、公共交通機関の運休や道路の閉鎖など、計画段階で収集する情報は多くなる。

 

雪山 入門 基礎知識
時にはラッセルを強いられることも(厳冬期の蓼科山)

■雪山登山のステップ

登山を始めるときに、雪山から始めるという人はまずいない。夏山登山を経験し、登山のノウハウやスキルを身に付け、登山用具の使用方法を習得し、登山体力をある程度養った上で、雪山へのステップを踏むことになる。雪山も残雪期や初冬期に軽アイゼンで歩く経験をした後に、12本爪アイゼンとピッケルを使用した本格的な雪山登山へと段階を進めていていくことが望ましい。

そして本格的な雪山をはじめる順序も、以下の段階を踏むのがよい。

 

1)天候の安定した低山から

標高2000m以下の低山、特に森林限界を越えない山は、強風にさらされることも少ないので入門者にとっては安心して雪山を経験できる。雪山の寒さの厳しさや風の強さなどを肌で感じ、雪道の歩き方やアイゼンやピッケルなどの雪山登山の用具の取扱い方に慣れるのに都合がいい。

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厳冬期の低山の山歩き(南アルプス・入笠山)

2)ロープウェイや山小屋が営業している山へ

冬期でもロープウェイが運行し、コース上に営業している山小屋がある2500mクラスの山が、次に目指すところとなるだろう。こうした山は入山者も多く、トレースも期待でき初心者にとっては歩きやすいコースが多い。但し、こうした山もいきなり厳冬期に行くのではなく、残雪期→春期→厳冬期と段階を踏むことが望ましい。

 

八ヶ岳は、雪山登山の入門者・初心者にとって最適な山域で、北八ヶ岳ではスキー場のロープウェイが利用できたり、冬期営業小屋も多いため、入山者も多くトレースのあるコースが多い。降雪量もそれほど多くなく、冬期の晴天率も高く、日帰りの雪山登山も可能なことから初心者に人気が高い。

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ロープウェイも利用できる春期の八ヶ岳・北横岳(標高2480m)

3)森林限界を越える山

森林限界(中部山岳地帯では標高2600m付近)を境に、雪山登山の様相は極端に変化する。強風にさらされ、厳しい寒さの中、アイスバーンや岩場が多くなり、転滑落の危険性は増し、困難にさらされる場面が多くなる。厳しい寒さと風雪を直接受け止めて歩く体力と技術が求められる世界である。

しかし雪山の美しさ、素晴らしい景観は、森林限界内では体験できない世界でもある。

雪山初級者が森林限界を越え、3000mクラスの山にのぞむなら、まずはGW付近の残雪期からになるだろう。この時期は天候も比較的安定し、寒さも緩み、営業小屋も増えることから、荷物も身軽で済むことがこの時期のいいところだ。

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GW残雪期の北アルプス・八方尾根